第65回日本糖尿病学会年次学術集会を聴講して

2022年5月12日から5月14日まで第65回日本糖尿病学会年次学術集会が開催されています。我々糖尿病を専門とする医師はこのような糖尿病学会の学術集会を通じて、新しい知見を得、研鑽し、患者様へ少しでも多く還元できるように努力しています。

昨日のシンポジウムでは「糖尿病のスティグマ」について取り上げたセッションがありました。「スティグマ」とは「負の烙印」という意味で、ここでは病気にまつわる悪いイメージのことを指します。日本では「生活習慣病」という名前で糖尿病や高脂血症などが紹介されることが多いですが、生活習慣を変えるだけで必ずしも改善するわけではありません。ただ、そのネーミングの影響で「贅沢病」「自己管理不足」など負のイメージをされることが少なくありません。
1型糖尿病という、ある日突然体からインスリンが出なくなり、糖尿病を発症してしまう病気があります。これは生活習慣とは関係の無い病気です。しかし、インスリン療法を実施しないと生命が脅かされる病気です。ただ、糖尿病は生活習慣病であるということで大変悲しい思いをされながら過ごしておられる方々が少なくありません。特に幼くして発症した方は、思春期という多感な時期をインスリンを打ちながら過ごさねばならない、どれだけ大変なことでしょうか。でもそういった思いを心に秘めながら、それでも前向きに頑張っていこうと頑張っている方々の力になりたいと思いました。

2型糖尿病はインスリン分泌低下もしくはインスリン作用不足によって血糖値が上昇する病気です。中には肥満で苦しんでおられる方々もおられます。これを生活習慣の乱れと断罪することも可能です。ただ、そのような状況に陥ってしまった背景を理解することが大切です。仕事で体力が必要だから意識的に食事をしていたら糖尿病になってしまった、仕事やプライベートのことでとても辛いことがあったので食べることでストレスを解消していたら糖尿病になってしまった、食べたくはないのに周囲から食べることを勧められてしまい必要以上に食べてしまっていたら糖尿病になってしまった、など糖尿病に至る過程は皆さん違います。また自己免疫疾患にかかりステロイドや免疫抑制剤で治療している間に糖尿病を発症していた、膵臓の病気が見つかり精査していたら糖尿病であることが分かった、など別の病気から糖尿病に陥ることもあります。

昨日のシンポジウムでは「糖尿病」という名称がもつ負のイメージがあるために、名称を変える必要があるのではないかという提言もありました。確かに、これまでにも病名が変わることによって、その病気がもつイメージが私も含め国民全体が変わったようなこともありましたので、より受け入れやすい適切な名称があれば変更することにより患者さんやご家族のご負担も変わるのではないかと思いました。シンポジウムには昨年引退された元阪神タイガースの岩田稔さんも登壇され、高校2年生で発症した1型糖尿病について語っておられました。プロ野球選手になる道のりは決して平坦ではなく、糖尿病で無い方と比べると遥かに多くの努力・苦労があったかと思います。糖尿病診療の際に、糖尿病が原因で出来ないことはあるのですかと聞かれることは少なくないのですが、岩田稔投手の例を出して、1型糖尿病でもプロ野球の第一線で活躍できるのだから、出来ないことを心配するよりも、やりたいことをどうやって実現したらいいのか考えましょうということも多かったです。

糖尿病治療で大切なことは、治療を継続することも大切ですが、その人を理解し、どのようにすれば希望されるライフスタイルを過ごせるのかを考えることが大切だと考えています。近年、糖尿病領域の治療は進歩しており、肥満を合併している2型糖尿病の状況であれば条件を満たすことにより手術療法も治療の選択肢になってきました。糖尿病や肥満症、高血圧症、高脂血症、またはそれ以外の体調不良(不眠など)などございましたら、当院に御相談下さい。

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