肥満症治療について(当院における最近の傾向)

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「コロナ禍」と呼ばれる状況も落ち着いてきており、当院の所在する梅田スカイビルの周辺も活気づいてきており、特にグラングリーン大阪の先行まちびらきには大勢の方がいらっしゃったようです(その影響で芝生の養生のために入場規制がかかってるようですが…)。

最近は健康診断の結果が悪いとのことで受診される方も増えてきております。数年来、コレステロールが高い、中性脂肪が高い、血圧が高い、血糖値が高い、でもリモートワークが多くて実際に医療機関に受診するきっかけが無かった方も沢山いらっしゃいます。そのような中で、肥満を指摘されて受診される方が増えてきている印象があります。中には肥満で他院で受診されたことがあっても、具体的なアドバイスなどが無く、逆に𠮟責されてしまい通院そのものを中断してしまった方も少なくありません。短期的にはうまく行かなかったとしても、長期的な視点で健康管理を行うことが肥満を合併している方にとっては大切なことになります。たとえ血液検査で異常が無かったとしても、日中に眠気があったり、いびきが多かったりする方が精密検査を受けられると重度の睡眠時無呼吸症候群であったことが判明することも少なくありません。当院では睡眠時無呼吸症候群の検査をご自宅で受けて頂くことが可能ですし、CPAPという治療機器をつかって身体の負担を軽減することが出来ますので心当たりの方は受診をご検討下さい。

当院における肥満症治療ですが、基本的には生活習慣の見直しが重要であると考えています。食事についても食事量だけではなく食事をするタイミング、それ以外にも睡眠時間を確保できているか、ストレスとどのように向き合っているか、などを重点的にお伺いしています。スーパーやコンビニを利用されている方も沢山いらっしゃるので、御自身が1回の食事でどの程度食べれば満足できるかイメージしながら商品を選択して頂き、その合計を計算して頂き、1日の食事回数をかけることでおおよその一日の摂取カロリーを把握します(詳細に把握する際には管理栄養士の先生にお願いすることになります)。その食事が現在の体格に見合った食事なのか、そうではない食事なのかを把握して、治療計画に反映させます。実は、この生活習慣の見直しだけで体重が下がる方は少なくありません。公私にわたり忙しい方々は目の前のことをこなすことに精一杯で、自分のことを放っておきがちです。そこで我々のような肥満症のプロフェッショナルが個人個人の背景を考慮した治療計画を提案し、患者様が実行することで減量を達成することは可能です。ただ、受診間隔が長くなってしまうとどうしても生活習慣を見直しする機会が減ってしまいますので、うまく行っておられる方は2週間ごとの受診を継続的に出来ておられる方が多いです。生活習慣に問題がなさそうなのに体重が減らない、逆に増えてしまう方については患者様と御相談のうえ大学病院などの専門医療機関をご紹介して入院のうえ精査して頂く場合もあります。

次に大切なのは薬物療法です。但し肥満症に有効な薬剤が全ての患者様に適応となるわけではなく、患者様の基礎疾患や身体状況によっては使用することが出来ない薬剤もあります。よく患者様からお問い合わせ頂くのが肥満症に適応のあるセマグルチドという薬剤なのですが、添付文書では問題なく使用出来そうなのですが、「最適使用推進ガイドライン」というガイドラインによりその使用が厳に制限されています(リンクを貼っておきましたのでご興味のある方はご覧ください)。その中で一番厳しいなと思うのが下記の①についてです。

① 施設について

・ 内科、循環器内科、内分泌内科、代謝内科又は糖尿病内科を標榜している保険医療機関であること。
・ 高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症の病態、経過と予後、診断、治療(参考:高血圧治療ガイドライン、動脈硬化性疾患予防ガイドライン又は糖尿病診療ガイドライン及び肥満症診療ガイドライン、肥満症の総合的治療ガイド)を熟知し、本剤についての十分な知識を有している医師(以下の<医師要件>参照)の指導のもとで本剤の処方が可能な医療機関であること。
・ 施設内に、以下の<医師要件>に掲げる各学会専門医いずれかを有する常勤医師が1人以上所属しており、本剤による治療に携われる体制が整っていること。また、以下の<医師要件>に掲げる各学会専門医のうち、自施設に所属していない専門医がいる場合は、当該専門医が所属する施設と適切に連携がとれる体制を有していること。
・ 以下の<医師要件>に掲げる各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。
・ 常勤の管理栄養士による適切な栄養指導を行うことができる施設であること。実施した栄養指導については診療録等に記録をとること。
<医師要件> 以下の基準を満たすこと。
➢ 医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症の診療に5年以上の臨床経験を有していること。 又は 医師免許取得後、満7年以上の臨床経験を有し、そのうち5年以上は高血圧、脂質異常又は2型糖尿病並びに肥満症の臨床研修を行っていること。
➢ 高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病を有する肥満症の診療に関連する以下のいずれかの学会の専門医を有していること。 ・ 日本循環器学会 ・ 日本糖尿病学会 ・ 日本内分泌学会 なお、日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい。

当院は医師要件は満たしていても、施設要件で処方することが出来ないことになります。こういう状況もあり、肥満症でお困りの方を近隣の基幹病院や大学病院にご紹介したことがあるのですが、採用の見込みがない、そもそも肥満症の診療をしていないということでお断りされるケースがほとんどで、ご紹介そのものを断念してしまった経緯がございます。今後、施設要件を満たす病院が広く患者様を受けて頂けることを希望します(むしろ私が施設要件を満たす病院で診察した方が早いんでしょうかとも思ってしまいます)。そのほかにお問い合わせ頂く薬剤がマジンドールになりますが、適応を間違えずに正しく経過観察を行うことで治療効果を発揮することができる薬剤になります。適応がBMI35以上の高度肥満症の方のみになります。それ以外にも漢方薬による治療もあり、患者様の背景を伺ったうえで治療を決定します。決して防風通聖散だけということはないのです(よく使う漢方であることに変わりはないのですが)。

最後は手術療法になります。現在日本では「腹腔鏡下スリーブ胃切除術」または「腹腔鏡下スリーブ・バイパス術」という手術が減量手術として保険適応となっております。生活習慣の見直しや薬物療法を行っても改善が乏しい方、また精神疾患の治療中などの理由で薬物療法が向いていない方などに減量手術を情報提供を行い、ご希望される方には大学病院をご紹介させて頂きます。

手術療法は決して魔法の手術ではなく、食べることが出来る量を制限したりするための手術になるので、手術を受けた後からさらに努力が必要になります。決して安易な気持ちで受けるべき手術ではないのですが、本当にお困りの方には非常に有効な治療ですので、御相談の方はお越し下さい。

以上は肥満症のみに特化した内容ですが、肥満症をきっかけに2型糖尿病や甲状腺疾患が初めて見つかる方も少なくありません。どちらも身体兆候として肥満症を呈することがある疾患ですので、2型糖尿病や甲状腺疾患を適切に治療することで肥満症が改善する方も沢山いらっしゃいます。お困りの方は是非一度ご相談下さい(当院ではインターネットや電話での医療相談は受け付けておりませんのでご了承下さい。診療受付はインターネットから申し込み可能です)。

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