当院における糖尿病診療について

いつもいんべクリニックをご利用いただき誠にありがとうございます。

当院では健康診断をきっかけに糖尿病を指摘をされ、受診される方が多く御来院頂きます。
中には転勤などに伴い当院でのインスリン療法を希望される方も少なくありません。
糖尿病診療においてインスリン療法はとても重要なポジショニングなのですが、患者様にとってはインスリン療法は非常に怖い印象を持っておられるかたも少なくありません。そこで今回は糖尿病についてご説明しようと思います。

そもそも「糖尿病」とは

糖尿病専門医研修ガイドブックによると、糖尿病とは「インスリンの作用の不足に基づく慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群である」とされ、「糖、脂質、タンパク質を含むほとんどすべての代謝系に異常をきたす」疾患群としています。糖尿病は「インスリンの供給不全(絶対的ないし相対的)とインスリンが作用する臓器(細胞)におけるインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)がある」疾患群です。糖代謝だけと思われがちですが、決してそうではないと知ることが重要です。

2型糖尿病の自然経過は上の図のように空腹時血糖値よりも先に食後血糖値が上昇してくることが多いため、健康診断で指摘されている頃には既にある程度進んでいる可能性がある。

Addition of exenatide twice daily to basal insulin for the treatment of type 2 diabetes: clinical studies and practical approaches to therapyより引用・抜粋

糖尿病の診断基準は?

糖尿病は慢性の高血糖状態を反映した診断基準を用いるため、一般的には空腹時血糖値126mg/dL以上、HbA1c6.5%以上が採用されることが多いのですが、随時血糖値を用いることもあります(空腹時血糖値が126mg/dL未満でも随時血糖値が200~300mg/dLといったかたはいらっしゃいます)。下記のフローチャートに従って診断を実施しています。

HbA1cだけでは診断出来ない。

糖尿病ネットワークニュース記事より引用・抜粋

年齢別に見た糖尿病を有する方々の状況

平成29年「国民健康・栄養調査」の結果からはこれまでと同様に年齢と共に糖尿病の有病率は増えてきております。ですので、毎年きちんと健康診断を受けている方々は健康診断で血糖値の異常を指摘される可能性が高くなってくることが分かります。

健康診断で血糖値を確認することがとても大切

なぜ健康診断で血糖値の確認を行うことが大切なのか、それは高血糖からくる自覚症状が乏しいからにほかなりません。例えば、狭心症や心筋梗塞では胸が痛くなったり苦しくなりますし、脳梗塞だと手足が動かなくなったり呂律が回らなくなったり比較的自分自身で異常を検知することが容易です。ただ、血糖値が高い状態というのは決して自覚症状が多いわけではありません。

  • 空腹感やのどの渇きがひどくなる
  • 急激な体重減少
  • 疲れやすくなる
  • 皮膚が乾燥して痒い
  • 手足の感覚が低下する(特に足)
  • 風邪に罹りやすくなったり、傷が治りにくくなる
  • 頻尿
  • 目のかすみ・物の見え方がかわる
  • 性機能の問題(ED)

上記の症状は高血糖の際に出てくることがありますが、高血糖以外でも出てくる症状ですのでこの症状が出たからと言って直ぐに医療機関を受診される方は少ないです。ただ、ある程度の期間放置しておくと急性合併症・慢性合併症が出現してきて入院を余儀なくされることも少なくありません。

急性合併症

急性合併症で注意しておきたい疾患は「糖尿病ケトアシドーシス」という病気です。この病気はインスリンが分泌されないタイプの糖尿病、1型糖尿病の方によくみられる疾患で、インスリンがでないことでエネルギー源であるブドウ糖が細胞に取り込まれず、ずっと血中に存在することで血糖値が高いにも関わらず飢餓状態となり、代謝が破綻する病気です。この状態に陥ると極度の脱水も併発するので点滴による脱水補正と充分な量のインスリン投与が必要となり、入院加療が必要となります。この状態に陥る前に自覚しやすい症状としては「のどが渇く」、「おしっこの量がふえる」、「体重が減る」、「とてもつかれやすい」などの症状です。「週」から「月」単位の経過で症状が進行することが多い病気ですが、劇症1型糖尿病という疾患は「日」単位で病状が進行し、適切なタイミングで適切な治療が受けることが出来ないと最悪の場合死に至る場合もあります。

参考:下の図はインスリン分泌を行う膵β細胞の量が縦軸に取られているが、自己免疫性1型糖尿病という病気と比較して、劇症1型糖尿病という病気の場合、膵β細胞は急激に減少していることが分かる。膵β細胞でのみインスリンは分泌されるので、膵β細胞が急激に減少すると、糖代謝は容易に破綻する。

Fulminant type 1 diabetes: a novel clinical entity requiring special attention by all medical practitionersより引用

慢性合併症

糖尿病特有の合併症は細小血管障害と呼ばれる小さな血管の障害であり、以下の3つが良く知られている。

糖尿病網膜症
糖尿病性腎症
糖尿病性神経障害

血糖コントロールの目標値 ~HbA1cを例に~

これら糖尿病特有の合併症の発症・進展を防ぐためには日頃から血糖コントロールを良好に保つことが大切で、個人個人に合わせた治療法が重要です。病態や生活習慣は人それぞれですので、実行可能な治療法を継続することが大切です。血糖コントロールの指標としてhbA1cという検査がよく用いられますが、目標値があります。

図1:血糖コントロール目標

  • 注1)適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標とする。
  • 注2)合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする。対応する血糖値としては、空腹血糖値130mg/dL未満,食後2時間血糖値180mg/dL未満をおおよその目安とする。
  • 注3)低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする。
  • 注4)いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠例は除くものとする。

健康長寿ネット「高齢者糖尿病の管理」より引用・抜粋

但し、年齢が上がるに従い自律神経障害などの影響もあり上記の目標を達成することが困難になるため下記の目標値を採用します。

図2:高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)

 治療目的は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。

  • 注1:認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(IADL:買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、日本老年医学会(外部リンク)(新しいウィンドウが開きます)を参照する。エンドオブライフの状態では、著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する。
  • 注2:高齢者糖尿病においても、合併症の予防のための目標は7.0%未満である。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする。下限を設けない。カテゴリーⅢに該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容される。
  • 注3:糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい。65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が表の目標や下限を下回る場合には、基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意する。グリニド薬は、種類・使用量・血糖値などを勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある。
  • 重要な注意事項糖尿病治療薬の使用にあたっては、日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照すること。薬剤使用時には多剤併用を避け、副作用の出現に十分に注意する。

健康長寿ネット「高齢者糖尿病の管理」より引用・抜粋

治療法は?

糖尿病の病態によって選択すべき治療法は様々です。

インスリン分泌不全が主体の1型糖尿病であれば強化インスリン療法が第一選択になりますし、自己血糖測定も必要になります。当院では従来型のSMBGに加えて、リブレシリーズ、DEXCOMシリーズなどのisCGMを取り扱っておりますので、病態に応じた最適な血糖測定が可能です。使用には一定の条件がありますので主治医に御相談下さい。

2型糖尿病であればインスリン分泌低下又はインスリン抵抗性を改善する治療になります。治療薬の適切な選択により合併症発症抑制、体重適正化なども可能です。当院では院内にGIP/GLP-1受容体作動薬、DPP4阻害薬、SGLT2阻害薬、メトホルミン、チアゾリジンなど採用しておりますので速やかに治療に取り掛かることが出来ます。またインスリンも近隣の調剤薬局様で受け取ることができるのでとても便利です。

簡単にご説明しましたが、これからも解説していきたいとも思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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