帯状疱疹と治療・予防法について

いつもいんべクリニックをご利用いただき誠にありがとうございます。
2025年度から65歳以上の方について、帯状疱疹のワクチンが定期接種になりました。
これによりこれまで費用負担の面で接種を希望されていても接種が出来なかった方については費用負担も少なく帯状疱疹の予防に取り組むことが出来るようになり、非常に喜ばしい状況になったと考えております。
但し帯状疱疹のワクチンは「弱毒生ワクチン」と「組み換えワクチン」の2種類があり、どちらを選んで良いのかわからないとのお声も良く伺います。
また「帯状疱疹のワクチンをうてば口唇ヘルペスも予防できるのか」とのご質問もお受けいたします(答えは「出来ない」です)。
今回の記事ではこれらのご質問にお答えしたいと思います。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

帯状疱疹とはなんですか?~治療法も含めて~

水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus, 以下VZV)は, ヘルペスウイルス科αヘルペスウイルス亜科に属し, 初感染時に水痘を引き起こす。初感染後2週間程度(10~21日)の潜伏期間を経て, 紅斑状丘疹が出現しその後水疱となる。発熱を伴うことも多く, 全身に紅斑, 丘疹, 水疱, 痂皮それぞれの段階の皮膚病変が混在するのが特徴である。水痘は小児期に好発する予後良好な発熱発疹性疾患である。空気, 飛沫, 接触感染の経路で人から人に伝搬し, 感染力が極めて強い。皮膚の二次性細菌感染, 肺炎, 髄膜炎, 脳炎, 小脳失調などが合併することがある。水痘は学校保健安全法による第2種学校感染症で, すべての発疹が痂皮化するまで出席停止である。成人になってから水痘に罹患すると重症になることが多い。また, 免疫抑制患者では水痘は極めて重症となり生命に関わることもある。

VZVは感染後終生にわたり, 主として脊髄後根神経節(三叉神経節を含む知覚神経節)に潜伏感染し, 加齢や免疫能低下などにより再活性化する。再活性化したVZVは神経節支配領域の皮膚上皮細胞に到達し, 帯状疱疹を発症させる。帯状疱疹患者の水疱液や気道分泌物(唾液を含む)に含まれるVZVには感染性がある。帯状疱疹の合併症である帯状疱疹後神経痛 (postherpetic neuralgia, 以下PHN) は, 皮疹消失後3カ月以上疼痛が持続する病態であり, 加齢は重要なリスク因子である。

国立健康危機管理研究機構感染症情報情報提供サイトより引用

上に書いてある通り帯状疱疹も口唇ヘルペスも一般的には「ヘルペス」というくくりをされるので、帯状疱疹のワクチンを打てば口唇ヘルペスも予防出来るのではないかと思われますが、厳密には異なります。

疾患名原因ウイルス特徴潜伏部位
帯状疱疹水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)一度水ぼうそうにかかると神経節に潜伏。加齢や免疫低下で再活性化し、神経痛を伴う皮疹を生じる。脊髄後根神経節など
口唇ヘルペス単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)主に唇や鼻周囲に症状。繰り返す再発が特徴。三叉神経節など

また、単純ヘルペスウイルスは2種類あり、発症様式により口唇ヘルペスと性器ヘルペスに区別されます。

項目口唇ヘルペス性器ヘルペス
原因ウイルス主にHSV-1(単純ヘルペスウイルス1型)主にHSV-2(単純ヘルペスウイルス2型)※最近はHSV-1による性器ヘルペスも増加
感染部位口唇・口周り・鼻の下・顔など外陰部、肛門周辺、太もものつけ根など
感染経路・唾液、接触感染・キスや食器の共有など・主に性行為(性器、口、肛門などの粘膜や皮膚との接触)
症状・唇やその周囲に水ぶくれやただれができる・ピリピリした違和感やかゆみから始まる・外陰部の痛み、かゆみ、違和感・水ぶくれ、潰瘍、排尿痛、発熱、リンパ節腫脹など
初感染の重症度比較的軽い場合が多い初感染は重症化することが多く、全身症状を伴いやすい
再発の頻度HSV-1は神経節に潜伏し、疲労やストレスで再発しやすいHSV-2は再発頻度が高く、年に数回再発する人もいる
潜伏場所三叉神経節(顔面)仙髄神経節(下半身)
治療法抗ウイルス薬(アシクロビルなど)内服・外用同様に抗ウイルス薬を使用(内服が主)
ワクチンの有無なし(※帯状疱疹ワクチンは無効)なし
感染予防・症状のあるときは接触を避ける・タオルや食器の共用を避ける・性行為時のコンドーム使用である程度予防可能・症状のあるときは性行為を避ける

但し、帯状疱疹ウイルス・単純ヘルペスウイルスどちらの感染症であっても速やかに治療を受けることが重要になってきますので、少しでも不安があればお近くの内科を受診してください。体表に症状が出ていない場合でも、神経を障害するため「ピリピリ」「びりびり」といった電撃痛の症状がでるため、診断の手掛かりとなることがあります。当院ではバラシクロビルという抗ウイルス薬の院内処方が可能ですので、医師の診察のうえ必要に応じて処方が可能です。

帯状疱疹のワクチンってどういう違いがあるのですか?

帯状疱疹のワクチンには「生ワクチン」と「組み換えワクチン」の2種類があります。どちらも原則50歳以上の方に適応があります。但し、組み換えワクチンであるシングリックスは帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上の者についても適応があり注意が必要です(生ワクチンは50歳以上のみ)。また生ワクチンは年齢が若いうちに接種することで高い効果が期待できますが、今回定期接種の対象となった65歳の方には効果のみで検討した場合には組み換えワクチンの方が推奨されると考えております。ただ、接種回数や費用面で生ワクチンを選択される方もいらっしゃると思われますので、その点については接種を希望される方の考え方になろうかと思います。参考までに、2024 年 11月24日 一般社団法人 日本ペインクリニック学会「帯状疱疹ワクチンの定期接種開始に向けての声明文」においてそれぞれのワクチンの特性についての表がございましたので以下にお示しいたします。

項目乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」(生ワクチン)乾燥組換え帯状疱疹ワクチン「シングリックス筋注用」(組換えワクチン)
接種対象者・50歳以上の者・50歳以上の者・帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上の者(疾患又は治療により免疫不全である者、免疫機能が低下した者は医師の判断により接種可能)
用法/用量皮下に1回接種筋肉内に2回接種
・50歳以上の者:通常2か月間隔
・帯状疱疹に罹患するリスクが高い18歳以上の者:通常1~2か月間隔
予防効果(有効性)60歳以上:51%
~年齢層別予防効果~
50-59歳:69.8%
60-69歳:64.0%
70-79歳:41.0%
80歳以上:18.0%
※上記はZOSTAVAXの帯状疱疹予防効果(ビケンと同等の薬剤)
50歳以上:97.2%
~年齢層別予防効果~
50-59歳:96.6%
60-69歳:97.4%
70-79歳:91.3%
80歳以上:91.4%
予防効果持続期間約5年程度現在は11年程度(継続調査中)
副反応接種後50.6%に副反応:注射部位の紅斑44.0%、掻痒感27.4%、熱感18.5%、腫脹17.0%、疼痛14.7%など注射部位副反応(2回接種合計)80.8%:疼痛78.0%、発赤38.1%、腫脹25.9%など全身性副反応64.8%:筋肉痛40.0%、疲労38.9%、頭痛32.6%など
接種不適当者1. 明らかな発熱を呈している者
2. 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
3. 本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがある者
4. 明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者(免疫抑制を含む治療を受けている者)
5. 妊娠していると明らかな者
6. 上記に該当する者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
1. 明らかな発熱を呈している者
2. 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
3. 本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがある者
4. 上記に該当する者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
併用禁忌・注意【併用禁忌】
・副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロン等)
・免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリン等)
【併用注意】
・輸血およびガンマグロブリン製剤・他の生ワクチン製剤
-(特別な併用禁忌なし)
費用(目安)1回 約9,000円前後1回 約22,000円前後
(注:2回接種で約44,000円)

2024 年 11月24日 一般社団法人 日本ペインクリニック学会「帯状疱疹ワクチンの定期接種開始に向けての声明文」より引用・改変

我々は帯状疱疹にどのように向き合えばよいか

2020年から帯状疱疹の予防接種が可能となりましたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延もあり帯状疱疹のワクチンについて周知されてきたのは最近のことのように思います。また、2025年4月から高齢者定期接種に採用され、接種を希望される方にはこれから普及するのかと思います。帯状疱疹は一度罹ったことのある方は特徴的な電撃痛があるため直ぐに受診してくださいますが、初回の方は皮疹が出ない限り原因不明の体調不良として自宅で経過観察されることが多いかと思います。そのまま自然に症状が無くなればよいのですが、数週間から数カ月、長い方は何年も帯状疱疹後神経痛に悩まされることがあります。そういった方々を診察している我々としては、可能なら接種して頂きたいと思います。ワクチンは疾患にかからないようにするためのお薬ですので、基本的には効果を実感できないものです。「なんや、言われてうってみたけど、全然効果ないな。」そう言っていただけるのが最大の効果であると考えております。当院で帯状疱疹ワクチンを接種された方の話を伺うと、身内の方が罹患されてとても辛い、職場の人が罹患されて後遺症が残ってしまった、など身近な方の帯状疱疹がきっかけでワクチン接種をうちに来られている方々がほとんどです。当院に定期的に通院して頂いている方々で定期接種や50歳以上の方々にはなるべくお声がけするように心がけてはおりますが、中々全ての方にお声がけ出来ているかと言われると必ずしもそうではないかもしれません。今回帯状疱疹ワクチンを取り上げましたが、それは希望される方皆様に接種する機会を失って頂きたくないという思いからです。最後になりますが、シングリックスという組み換えワクチンは10年以上効果が確認されており、11.4年間での予防効果は87.7%とされています。ただ、「ワクチン接種は痛くないのでしょうか」とのご質問はほぼすべての方々からお尋ねされます。シングリックスは筋肉注射で薬液注入時に少し痛むということだけはお伝えしておきたいとおもいます(何も感じないという方はおられなかったように思います)。コロナワクチンの時と同じで、局所を冷やしたり、解熱鎮痛剤で様子をみることで数日で痛みはひいてきますので過度な御心配はされなくてよいのかと存じます。最後に参考資料として「諸外国における帯状疱疹ワクチン導入状況」の一覧表を掲載しておきます。帯状疱疹にり患後どの程度で接種が望ましいのかであったり、生ワクチンを接種した場合にはどの程度間隔を空けて打つ方がいいのか参考になりますのでご一読下さい(但し、定期接種としての帯状疱疹ワクチン接種は未接種の方のみが対象となるため、今回生ワクチンを接種した後に再接種を希望される場合の参考資料としてください)。当院では帯状疱疹罹患後3か月以上経過の後にワクチン接種を行うようにしております。

今回の記事が皆様の帯状疱疹ワクチン接種の選択の際の一助になれば幸いです。

参考資料:
諸外国における帯状疱疹ワクチン導入状況:帯状疱疹ファクトシート第2版より引用・抜粋

国名承認ワクチン(弱毒生ワクチン)承認ワクチン(不活化ワクチン)NIPへの帯状疱疹ワクチン導入NIP対象者NIP未導入国における接種推奨年齢特定対象者への接種適応帯状疱疹罹患歴がある場合の推奨接種間隔弱毒生帯状疱疹ワクチンの接種歴がある場合の推奨間隔
米国あり50歳以上19歳以上ハイリスク群急性期を過ぎて症状軽快後少なくとも8週間/2か月
カナダあり50歳以上少なくとも1年少なくとも1年
オーストラリアあり65歳以上
50歳以上のアボリジニとトレス海峡諸島の人々
18歳以上重症免疫不全者
NIPとして接種していた場合は5年
自費接種の場合は問わない
ニュージーランドあり65歳以上18歳以上ハイリスク者
中国50歳以上18歳以上ハイリスク者
香港
2021年時点

2021年時点
韓国
2023年時点

2023年時点
弱毒生:60歳以上
不活化:50歳以上
18歳以上ハイリスク者
オーストリア50歳以上18歳以上ハイリスク者急性期症状の軽快後(少なくとも2か月)少なくとも1年
チェコ
2021年時点

2021年時点
50歳以上
ベルギー60歳以上18歳以上ハイリスク者
アイルランド50歳以上18歳以上ハイリスク者少なくとも1年
フランスあり65~74歳
ドイツあり60歳50歳以上ハイリスク者急性期を過ぎて症状軽快後少なくとも5年
ギリシャ
60~75歳

免疫不全者
あり60~75歳
18歳以上免疫不全者**
オランダ60歳以上(60歳以上)
イタリアあり65歳以上
18歳以上ハイリスク者
接種間隔の下限の推奨無し
ルクセンブルク―あり65歳以上
18歳以上ハイリスク者
スペインあり65歳以上
18歳以上ハイリスク者
少なくとも5年
英国あり65歳
70歳***
73~79歳
50歳以上ハイリスク者
18~49歳の造血幹細胞移植後の場合接種妥当
イスラエル60歳以上

 NIP; National Immunization Program 国の予防接種プログラム
1 特筆ない場合は2024年1月現在.斜線は情報確認困難.
** 2回以上の帯状疱疹の既往がある場合.
*** 60歳以上を推奨し、10年間で対象年齢を移行中.2028年9月以降変更の予定.

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