誤解の多い肥満症治療について

肥満症治療における治療費への「誤解」

当院は院長が日本肥満学会認定肥満症専門医の有資格者であることもあり、肥満に関する御相談を受けることが多いです(むしろ肥満メインでの御相談が多い印象です)。ただ、肥満症の治療に関しては自由診療の広告が目立つ影響もあり、

「こちらは肥満をみて頂けるのでしょうか」

「前金〇〇十万必要ですか?」

「何か高額なオプション料金が発生するとかもないですか?」

当院に受診前に御相談があった内容より一部抜粋

といった御相談も少なくありません。「肥満 治療」などの検索ワードで調べると、様々な特別の治療プランがヒットしますし、自由診療の場合、保険診療と比較すると高額なことがほとんどです。保険診療は科学的根拠に基づいた妥当性のある治療(=「最高の治療」と読み替えてもいいかもしれません)が、多くの人の場合自己負担額が3割負担で受けることが出来るため、保険診療と比較すると自由診療が割高になるのは無理もないのかもしれません。

肥満症治療における治療対象の「誤解」(肥満症治療であって痩身ではない)

 「BMI25以上」で「肥満関連疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)」があれば「肥満症」であり、医学的な介入が必要ですので治療が必要な状態です。「BMI25以上」だけという方もおられるかもしれませんが、きちっと検査を受けて頂くと何らかの異常が見つかることがほとんどですので、健康に過ごしたいという方は是非受診して頂ければと思っています。また、当院ではインフルエンザワクチンなどの予防接種や自費検査以外の自由診療は行っていないので、初診の際に当院で血液検査などを受けて頂く場合、3割負担の方であれば初診料を含めて3000~5000円前後の自己負担の場合がほとんどです(当院は現金のみで、キャッシュレス対応していません、すみません)。中にはBMI25以上の基準値を満たしていない正常な体型やBMI18.5未満の「痩せ」の方から「太っている」と御相談を受けることもありますが、保険診療の範疇ではありません。勿論、糖尿病、高血圧や脂質異常症などの疾患があればそれらの治療を実施することは言うまでもありません。特に「痩せ」の方はボディーイメージの歪みが伴うことがあるので、「痩せ」の方の痩身治療が摂食障害の入り口となる可能性があることを知っておく必要があります。

肥満症治療における治療内容への「誤解」

「このお薬を飲んでいれば痩せるので食事は気にしなくても大丈夫です。」と言われたが、全然痩せなかった。

「この注射を打っていれば痩せます」と言われていたが、むしろ体重が増えた。

当院の外来で話された内容の一部を抜粋

上記は診察室で伺った要約になります。肥満症の治療の基本は「食事療法」です。内分泌異常などが無い限り、基本的には「食べる」から「体重が増える」。もっというと「必要以上に食べる」から「必要以上に体重が増える」です。但し肥満症で受診される方の中には食べている量を客観的にみることが苦手な方も多いのは事実なので、そのような場合にはスマホアプリを使って簡単にカロリー計算をしてみることをお勧めしています。あとは運動量を把握して、なるべく体に負担のかからない形で運動療法を行うようにお願いしています。それでも思ったような減量効果が得られない場合に薬物療法を考慮します。

「肥満症診療ガイドライン2022」では「薬物療法は、食事・運動・行動療法によって得られる減量が不十分な肥満症に限りその適応を考慮する」とされています。具体的には血液検査等で肥満に陥るような疾患が隠れていないかを精査しながら、食事療法・運動療法・行動療法を3~6カ月程度行い、それでも不十分な場合には薬物療法を考慮します。但し、「合併症の重篤性から急速な減量を要する場合は薬物療法の併用を検討する」とされていますので、合併症に応じた薬物療法の選択が重要です。

薬物療法で大切なのは、「食欲をコントロール(≒食べる量を減らす)」することが主な目的である、ということです。残念ながら現時点では、基礎代謝を上げるという薬剤は利用できないので、食べる量を減らすか、食べたものから体内への吸収効率を減らすか、既に体についてしまった脂肪を取り除くかの3つしかありません。ただ、食欲をコントロールせずに脂肪だけを取り除く治療を行うと、また脂肪が溜まっていくので、半永久的に治療を行うことになります。例えば1kgの脂肪を取り除けば1kgの減量は確実なので満足度は高いのかもしれません。ただし、上流を食い止めていないので時間と共に1kgの脂肪が増えてくる可能性はあるかもしれません。逆に食欲をコントロールして食べる量を減らす方法では、すぐには体重は減らないですが、徐々に体重を減らすことが可能です。
例えば、下の栄養情報をご覧ください。これは何でしょうか?

これはマクドナルドのハンバーガの栄養情報です。例えば1日にマクドナルドのハンバーガを2個食べている人が1個に減らしたら、どの程度の減量効果が得られるのでしょうか。1カ月を30日と計算すると「256kcal×30日=7680kcal/月」、つまり1カ月に7680kcalの減量に成功します。これを脂質に置き換えてみると脂質1gは9kcalなので、「7680kcal/月÷9kcal/g=853g/月」、つまり1カ月に脂質853g程度減量することになります。脂肪の約8割は脂質ですが、残り2割ほどは水分や細胞を形成するさまざまな物質で構成されているので、「853÷0.8=1066」、つまり脂肪としては1カ月に1kg程度減量することになります。勿論減量の際には脂肪以外にも水分や筋肉量も減ったりするので、必ずしもこのようになるわけではないのですが、毎日きっちりとダイエットをすることでこの程度の減量効果が得られるということを理解することが大切です。

私たちが肥満症治療で目指すもの、それは「健康的な体づくり」

保険診療で行う限り肥満症治療の目的は「健康的な体づくり」、その一言につきます。「コロナ禍」と呼ばれる非常事態の中で、肥満症の方々が新型コロナウイルス感染症に罹患し、命を落とされたということが数多く報道されてきたかと思います。私はコロナ禍以前から肥満症治療の重要性を身に染みて感じており、多くの肥満症患者様の治療に携わってきました。ただ、その中で「健康診断で言われたので来ました」とか「今の主治医に言われてきました」という方も珍しくはありませんでした。しかし患者様ご本人の治療意欲が高くないと肥満症の治療の継続そのものが困難です。肥満症の治療の意義を多くの方に知って頂く必要があると思っています。そのような方には肥満症を放置しておくと、高血圧・脂質異常症・糖尿病などの基礎疾患を発症し、命が脅かされるリスクが増えるために治療が必要なのだと説明させて頂いています(また多くの疾患の場合、自覚症状を伴わない)。体重低下のみを主眼とした治療、特に肥満ではない方に殊更体重減少を促すような治療を行うと心身ともに体調を崩してしまいがちです。摂食障害など、新たな疾患を発症される方も稀ではありません。だからこそ、肥満症治療の専門家の元で治療を行うことが重要です。また肥満症の治療が一人で出来そうだと思われる方も少なくないと思いますが、体重や腹囲などの測定項目を客観視することが必要ですので、多くの人は志半ばにしてあきらめてしまうことがほとんどです。医療機関を受診することのハードルが高いと思われる方も多いと思いますが、まずは受診することから始まります。どうか私たちを頼ってください。

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